令和4年度第11号 ひとときの仮想劇場(5) メモリー(Memory) ミュージカル『キャッツ』(関谷道夫 委員)

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ページ番号1003600  更新日 2025年1月22日

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ひとときの仮想劇場(5)メモリー(Memory)~ミュージカル『キャッツ』~

心理臨床をしていると、凄烈な印象記憶に残る子どもがいます。十代に壮絶な人生を歩んだ少女がいました。まさに壮絶です。こころも身体もボロボロになって生きていました。死が近くにありました。突き動かすマグマがどこから生じるのか不思議でした。
季節が移り変わり、多くの時が過ぎて、もう中年の年齢になっています。酸っぱいメモリー(思い出)になっているか?今もきわどい生活を続けているのか?と想像を巡らすことがあります。遠くから「今は、どうか幸せに!」と祈るしかありません。

いつもの仮想劇場では、ミュージカル「CATS」が上映されています。今聞こえるのは、老いた猫グリザベラが歌う「メモリー
グリザベラは、ぼろぼろのコートをまとったみすぼらしい娼婦猫。若い頃は大層美しい猫だったが、今はその面影はなく、嫌われながらも猫たちの盛り場をうろついている。
人間に飼い馴らされることを拒否して、逆境に負けずしたたかに生き抜き、自らの人生を謳歌する24匹の個性的な猫たち、それがジェリクルキャッツ。年に一度「天井にのぼる猫」が決定され、選ばれた猫は「あらたな命」を得て、理想の自分に生まれ変わることができるジェリクル舞踏会が開かれる。
グリザベラは、周囲からは疎まれているが、純真な幼い猫シラバブと、尊敬を集める長老猫オールドデュトロノミーだけは彼女を見捨てない。
猫達が警戒し軽蔑の目を向ける中、グリザベラは再び「メモリー」を歌い始める。途中で力尽きてしまいそうになるが、赤ちゃん猫のシラバブが純粋な歌声でグリザベラを助け、2人の美しい歌声が響き渡る。

日の光よ
私は朝日が昇るのを待つわ
新しい命に思いをはせるの
私は屈したりしない
夜明けが来れば
今夜もまた、思い出となる
そして新しい1日が始まるの

写真:ミュージカル「CATS」ポスター

誰にでも、消せない悔恨や忸怩(※1)たる思いがあります。一方で、これまでの人生を素直に受け入れて、新しい明日を迎えたい!という気持ちもあります。
ちなみに、Memoryが終わると、みんなが静かにグリザベラのもとへ近づき、優しく「天井へ登れ」と促します。そして、大きな気球に乗り天井へ登るグリザベラ。グリザベラは、新たな命を得て生まれ変わります。
CATSでは、一匹一匹の猫としての動き・しぐさ・踊りが追及されています。身体性の究極です。猫達の細やかな動きと圧倒的パフォーマンスが全てを物語っています。
また、人間と同じく「救済と再生」のテーマが描かれています。私たち観客たちも、自分の中の一匹一匹の独自の猫に目覚め、思い出を糧に、新たな命を燃やしたいと思うようになります
エレイン・ペイジの抑制された演技と歌唱は、何度聴いてもやっぱりグッとくるものがあります。最近は、シラバブのような若々しい佐藤奏子の「メモリー」を聞いています。

5回にわたって開演された仮想劇場も、今回で終演です。
ミュージカルCATS風に幕を閉じましょう。

今、悩み苦しんでいる子猫たちへ。
辛い体験も激しい痛みも、いつかは朝がやって来るものよ。少し酸っぱい思い出に変わって、あなたを彩ってくれるわ。
あなたの周りを見てごらん。きっとあなたの近くにも、優しく手を差し伸べるシラバブ、暖かい眼差しで見守るオールドデュトロノミー、そしてあなたを理解する多くの猫たちがいるはずよ。

Look, a new day
Has begun

写真:海辺

子どもの権利擁護委員 関谷 道夫

※1 忸怩(じくじ)…深く恥じいるさま。

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