あおもり今・昔123

正覚寺の幽霊画

 青森市本町にある無量山正覚寺(浄土宗)は、青森開港まもない寛永5年(1627年)に開かれた由緒ある寺院で、津軽三十三観音霊場の22番札所としても多くの参詣者を集めている。
正覚寺にある幽霊画
▲正覚寺にある幽霊画(絹本著色 軸装 縦110.4cm 横41.0cm)
 実は、この正覚寺に幽霊画がある。その箱には「幽霊 正覚寺(じゅう)」(蓋表)、「為亡霊于(なきれいのために)時明治四十四年 寄附人 柴田文太郎」(蓋裏)と記されているが、残念なことに落款がない。しかしこれは同寺の什宝(じゅうほう)であるとともに、青森市における貴重な文化財なので、ここに紹介しよう。
 描かれているのは、経帷子(きょうかたびら)を着た女性の幽霊が乱れた長い髪の毛の一束をむんずと掴み、何かを睨みつけている図である。消え入りそうな足元に浮かぶ燐火(りんか)は、怨念を象徴するかのように激しく燃え上がるが、それは反面、亡者の哀痛とも感じられるものがある。
 そのリアルな描写力は細部にまで冴えわたり、筆者自身が「亡霊」を実際に見て描いたのかと思わせるほどである。そして、その卓越したリアリズムは、見る者に死者に対する畏怖の念を起こさせてやまないものがある。これまで正覚寺に秘蔵の良作ありといわれてきた所以が、この点にあるのだろうか。
 ちなみに、この幽霊画を出す日は必ず晴れるという不思議な言い伝えがある。これに対して、弘前市久渡寺(くどじ)の「幽霊画」(伝円山応挙筆)を出すと、必ず雨が降るのだという。その神秘的な力で私たち人間界に影響を及ぼしつづける「幽霊」への興味は、この現代においても尽きることはない。
【市史編さん室嘱託員 石山晃子】

※『広報あおもり』2004年2月1日号に掲載


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