あおもり今・昔39

伝尻八館と中世陶磁器

 考古学は、原始・古代だけでなく、中世や近世の文字で記録されなかった歴史を次第に明らかにしている。
 今から28年ほど前、「後方羊蹄(しりべし)郷土史研究会(後潟の有志によって昭和31年に結成)」の人たちは、後潟集落から約4キロメートルほど西側にある伝尻八館と呼ばれている山城から、素晴らしい陶磁器などを採集していた。
 この陶磁器を鑑定した故三上次男(つぎお)博士(東京大学名誉教授)は、13〜14世紀に中国・浙江省(せっこうしょう)龍泉窯(りゅうせんよう)で製作された青磁浮牡丹文香炉(せいじうきぼたんもんこうろ)であることを認め、外ヶ浜から出土したことに「予想を超える発見」とした。当時、同類の陶磁器は鎌倉幕府の執権であった北条氏の伝世品などに数例見られるだけだった。
▼伝尻八館出土の青磁浮牡丹文香炉
伝尻八館出土の青磁浮牡丹文香炉
▲県立郷土館蔵
 ところが、これだけの陶磁器を出土する山城でありながら、文献的にこの場所を裏付ける史料はほとんどなく、発掘調査以外に山城の実態を解明できる手段はなかったのである。
 三上博士は、出土した陶磁器は城主の経済力の豊かさと政治勢力の強さを物語るものと考え、地元の人たちと共に、地域ぐるみで発掘調査を行うこととなった。
 昭和52〜54年にかけて、県立郷土館が中心となって行った発掘調査で、堀跡の解明や生活用具など総数1千800点にのぼる遺物が発見され、その質の高さは、津軽の中世史に新たな局面を開くこととなった。
 現在、県立郷土館に展示してある遺物を見ると、中世における東アジア交易の逸品が並んでおり、「辺境」のイメージとは程遠い遺跡の姿を見せてくれている。
【考古部会執筆編集員 工藤清泰】

※『広報あおもり』1999年3月1日号に掲載


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