あおもり今・昔132−自然よもやま話−

北八甲田の乾燥化とグダリ沼の湧水

 八甲田のロープウェイに乗り、下を眺めると、緑の樹海の広がりに圧倒される。
 樹海は、ミズナラ、サワグルミ、ブナ、トチ、ミヤマハンノキで、所々に白いダケカンバが目立ち、山の上の部分には、アオモリトドマツが侵入している。
 この辺の樹木からは気孔蒸散によりすごい水分が空へ放散されているだろう、と思って見ていると、間もなく山頂駅に着いた。
 田茂萢山頂周辺は、池塘(ちとう)と湿原が広がり、イワイチョウ、チングルマ、ヒナザクラ、ハクサンチドリなどが咲きみだれているが、自然遷移が早く、湿原の乾燥化が進み、展望台の床板を一部壊すまでにナナカマドやアオモリトドマツが入り込み、池塘、湿原の水面は以前よりも小さくなっている。
 今年の夏、田代平の広々とした湿原で、一面ワタスゲや黄色のキンコウカの広がりは、例年通りと見られるものの、ヤチコタヌキモや温帯性スイレン(園芸植物)の咲く、比較的大きな池塘も、浅くなってしまっている。
グダリ沼のスギナモの大群落
▲グダリ沼のスギナモの大群落
 駒込川の源流部とされる田代平のグダリ沼の湧水量は、ここ十数年で、年々減少している。ミズナラの大木が倒れているあたりは、かつて、腰あたりの深さで、約80センチメートルあったものが、現在は約50センチメートルと、膝位までの深さで浅くなってしまっている。
 今まで見て来た様子から、このグダリ沼の湧水量の減少が、北八甲田全体の乾燥化のバロメーターのように思われる。流水の中に、バイカモが花を咲かせているが、広がりが大幅に減少し、牧草から入り込んだハイコヌカグサが、浅い流水中に繁茂し、バイカモの茎葉と同じよう赤い茎葉を流水の中にたなびかせている。西側の岸辺は、オオカサスゲが繁茂し、ミズナラの倒木の北側下流の部分には、最近本州では、最大と思われるスギナモ(スギナモ科:ごく限られた寒地の水域に見られる貴重な植物)の大群落が見られるようになった。水深が浅くなったためか、アオミドロの一種も発生し、このあたりの水草の分布の変動も激しい。
 4種類もいる扁形動物のプラナリア類も、水深や水草など環境の変化に敏感に適応し、その個体数を増減させている。浅い水中の石には、水生昆虫の卵塊が著しい。
【自然部会執筆編集員 小山内孝】

※『広報あおもり』2004年11月1日号に掲載


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