あおもり今・昔91

凍った海と港町

 青森市を含む北東北や南北海道の「古代世界」の歴史や文化を探るため、日本海に面する各地域間の交流を伝える遺跡・遺物や資料を調査している。
 ところで、3月中旬に日本海の対岸、ロシアのウラジオストクを訪れる機会があった。ウラジオストクは半島に広がる街で、西海岸のアムール湾は全体が厚い氷で覆われていた。アムール湾には中国黒竜江省に水源を持つラズドリナーヤ河(中国名綏芬河(すいふんがわ))が流れ出して湾内の塩分濃度が低くなっており、そのため冬は厚い氷がはるということだった。
凍ったアムール湾
▲凍ったアムール湾
 ロシア沿海地方の遺跡を訪れるようになって不思議に思っていたのが、河口に港町が発達していないことだった。今回、凍った湾の光景を見て、これまでの疑問が氷解した。大河の流れ込まない入江はよほどの低温にならない限り凍らないので、沿海地方の港は深い入江に面して立地することが一般的だとロシア人から聞いた。
 近世以前の日本では、岩木川の河口に港を設けた十三湊(現在の市浦村)のように、河口や(せき)を利用した港が多かった。現在の青森市の港は岸壁を人工的に構築した近代的な構造だが、青森湾に流れ込む堤川などの河口を港に利用していたのが元来の姿と思われる。
 マイナス20度を超える厳寒のロシア沿海地方では、海に囲まれて比較的暖かい冬を過ごす日本とは異なった港町の歴史を持っているようである。
【古代部会調査協力員 小嶋芳孝】

※『広報あおもり』2001年6月1日号に掲載


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